あでやかに咲き誇る大輪の花

「バルバラ・フリットリ ソプラノ・リサイタル」(2012)より「わたしの声はピュアなリリコ。軽すぎることもなく、かなり暖かい音色のリリコです。リリコのなかでは、少し重めの役も歌える声質だと思います」
 これは2005年に滞在先のトリノでインタビューしたときの、フリットリの言葉だ。なんと冷静に的確に自分の声を把握し分析した言葉だろう。あれから10年近くが経過して、いまの彼女の声はスピントの役柄まで歌えるほど充分に成熟している。しかし賢明な彼女はつねに「純粋なリリコ」に戻れるベースを保ち続けている。
 類まれな美声と美貌を持ち、イタリア伝統のベルカントの技法を身につけ、曲への深い洞察力と表現力、知的コントロールも持ち合わせているフリットリ。のびやかな声の響きを生かして、キャリア初期にはモーツァルトの諸役を歌い、ヴェルディではデズデーモナやアリーチェから、レオノーラやエリザベッタへ。プッチーニのリュウやミミ。そして近年はアイーダやトスカなど強い表現力を求められる役にも挑戦している。実際に会ったフリットリは、確固とした主張を持ち、つねに前向きな姿勢の持ち主だった。新しい役に積極的にチャレンジするが、同時に自分の声に合った役だけを慎重に選ぶ決断力も持ち合わせている、じつに聡明な女性なのだ。
 これまで日本で、オペラの舞台やリサイタルを重ねてきた彼女だが、とくにリサイタルではプログラムが多彩なことが特徴だ。今回も管弦楽伴奏の歌曲とオペラ・アリアを組み合わせたプログラム。なかでもデュパルクとベルリオーズ(「夏の夜」は聴きのがせない!)によるフランス歌曲(彼女はフランス語も堪能だ!)が興味深い。後半のオペラ・アリアは 5曲とも全て聴きもの。深い内容を含んだヴィテリアの悔恨のアリア、新鮮なレパートリー「マノン」のアリア。そして今後の彼女の重要レパートリーになるであろう、アイーダとトスカという重量級の曲が並んでいる。
 「オペラの役に入るときは、充分に準備を重ね、他の役も全部歌えるようにします。そして舞台に立つときは、最大の力を尽くして歌う。歌手という仕事は強くなくては出来ません。いつも道を踏み外さないように、細心の注意をしなくてはいけないのです」
 舞台上での凛としたたたずまいは、日頃のたゆまない鍛練の賜物なのだ。まるであでやかに咲き誇る大輪の花のように、つねに高貴でしなやかなバルバラ・フリットリ。「ベルカントの女王」の座はいまも揺るぎない。

石戸谷結子(音楽評論家)

曲目決定!

※演奏順不同。 ☆はオーケストラ演奏
※上記の楽曲は2014年3月24日現在の予定です。演奏者の都合により変更になることがあります

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