NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
Photo: Simon Pauly

2024/06/05(水)Vol.495

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演 

『トゥーランドット』カラフ役のブライアン・ジェイドに聞く
2024/06/05(水)
2024年06月05日号
TOPニュース
インタビュー
オペラ

Photo: Simon Pauly

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演 

『トゥーランドット』カラフ役のブライアン・ジェイドに聞く

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演の『トゥーランドット』でカラフ役を演じるブライアン・ジェイド。初来日となる今回は、オペラ公演の後『トゥーランドット』のタイトル・ロールを務める、ソンドラ・ラドヴァノフスキーとのデュオ・コンサートにも登場します。生粋のニューヨーカーであるジェイドは、美しい声を持つテノールとしてメトロポリタン歌劇場(MET)をはじめ、世界で活躍しています。メール・インタビューでは、これまでのキャリアについて、歌手として、音楽家としての信条を答えてくれました。

「オペラでは舞台上のすべてが観客へと伝わります。一方、コンサートでは歌詞を観客に意図的かつ親密に伝えることが求められる。どちらもとても楽しみです」

――まずキャリアについて。バリトンとして声楽の勉強を始めたというのは本当ですか? テノールに転向したきっかけは何だったのでしょう? テノールに転向して良かったと思ったことはありますか?

ブライアン・ジェイド:はい、(バリトンでのスタートは)本当です! 低所得の家庭で育った私は、若い頃は声楽のレッスンを受けるお金がありませんでした。そのため、子どもの頃に参加した合唱団やミュージカルでは、私の自然な声は常にテノールでした。クラシックの歌い方を習おうと決めたのは20歳のときで、このとき私はすでに大学で2年間学び、ビジネスの学位を取得していました。クラシックの声楽を学ぶということが「オペラ」を意味することすら知らなかったため、当然、トレーニング1年目には予想外のことが山ほどありました。学んでいく過程で、私の声は典型的なテノールの声よりも暗い色調になり、先生たちは私がバリトンだと思ったのです。何もわからなかった私は、当時の先生の言うことを聞いていました。これは実はよくある間違いです。私だけでなく、過去には、バリトンのレパートリーで時間を費やした後、最終的にテノールだったとわかった有名なテノールがたくさんいます。間違ったテクニックで間違った音楽を歌っていた時間がありましたが、私自身はずっとテノールだったと思います。 15年前に、現在指導を受けている先生と出会ってからは、間違いを繰り返すことはありませんでした。先生は私がテノール歌手であることをすぐに理解してくれましたし、私も長い間そう考えていたのですから。すべては起こるべくして起こったこと。私は(テノールとしての)自分の声をゼロから作り上げるために新しいテクニックを追求する決断ができたことに、とても感謝しています。

Photo: Chris Singer

――あなたは今、メトロポリタン歌劇場(MET)で最も人気の高いアーティストの一人です。そこで演奏し、喝采を浴びるのはどんな気分ですか? ニューヨークで生まれ育ったあなたにとって、METとはどのような存在なのでしょう?

ジェイド:生粋のニューヨーカーとして、故郷で歌うのはとても特別なことです。私の最初のオペラ体験はすべてニューヨークでした。ニューヨークの人々のために歌うことは私にとって名誉なことですし、もちろん私はニューヨーク出身なので、友人や家族が世界中を旅しなくても私を観る(聴く)機会が増えました! メトロポリタン歌劇場で歌うのはとても快適です。大きな劇場にもかかわらず、私という"楽器"がぴったり手に合う手袋のように感じます。

――オペラ歌手としてのあなたの優秀さは、イタリアのオペラの数々やリヒャルト・シュトラウスのオペラでの素晴らしい演技によって十分に証明されています。役を選ぶ際に何か原則はありますか? レパートリーを広げるアイデアや計画はありますか?

ジェイド:私は常に、ゆっくりでも着実にやれば勝利をつかめると信じてきました。2014年に初めてジークムント役のオファーを受けました。特定の役に関しては、長い間「ノー」が私のお気に入りの言葉でした。なぜなら、ワーグナーの大役をあまりに早く歌うと、キャスティング・ディレクターが私を『トスカ』などの候補から外してしまうかもしれないからです。私はチームと共にレパートリーを選ぶために一生懸命考えています。どの役が自分に合っているかを最終決定する前に、すべてのオファーをチームと考え、そして最も重要なのは声楽の先生と相談することです。自分の声の状態を知ることは、キャリアにとって非常に重要な要素です。しかし、それは私という"楽器"だけではなく、前後に演じる役も含めてのタイミングも影響します。「今シーズンのこれまでのスケジュールを考えると、この役を適切に準備するのに十分な時間があるだろうか?」。このような質問は、いつその役を引き受けるか、受けないかを決めるために不可欠なのです。

――初の日本ツアーでは、英国ロイヤル・オペラの『トゥーランドット』に出演し、その後にはソンドラ・ラドヴァノフスキーさんとデュオ・コンサートも行います。オペラ公演とコンサートで同じアリアを歌うことは、あなたにとって同じですか、それとも違いますか?

ジェイド:コンサートで歌うことは、オペラの舞台で歌うことと本質的に異なります。なぜなら、オペラでは舞台セットや演出としてのステージング、他の登場人物とのやり取りなど、すべてが観客へと伝わります。一方、歌手がオーケストラをバックに観客に向けてアリアを歌うときは、歌手が歌う歌詞を観客に意図的かつ親密に伝えることが求められるのです。どちらもとても楽しみです。

メトロポリタン歌劇場『トスカ』ソンドラ・ラドヴァノフスキーと
Photo: Ken Howard

――あなたは多忙な公演スケジュールの傍ら、オペラ・フォー・ピース*のアンバサダーも務めています。この役職ではどのようなことをされていますか? またこうした活動に取り組む目的は何ですか?

ジェイド:私が育った時代、私のような子どもたちは公立学校での芸術教育に関しては、今の子どもたちに比べると贅沢な時間を与えられていました。アメリカが、他の多くの国ほど芸術や文化に投資していないことは、私が本当に不満に感じているところです。私はできる限り、若い人たちと会って生の声で歌われるオペラを聴く体験をしてもらうために時間を作るようにしています。若い人たちが初めてオペラを聴いて、目を輝かせるのを見るのはいつも素晴らしいことなのです。
オペラ・フォー・ピースは、発足当初から参加していることを誇りに思っている取り組みです。世界中から、新進気鋭の無名の才能を発掘し、支援しているところが気に入っています。その中には、アーティストとしてチャンスがほとんどない、あるいはまったくない場所からやって来る人もいます。アンバサダーとして、毎年開催されるアカデミーでマスタークラスを行い、アーティストと連絡を取り合い、興味があれば指導しています。次世代の歌手たちを助けることは、私にとって大きな喜びです。なぜなら、彼らは今日よりもさらに困難に直面するからです。また、ソーシャルメディアで数え切れないほどの質問やリクエストを受け取っているので、できる限り対応し、テクニックやキャリアの選択などについてアドバイスしています。私自身も贈り物をもらったと思っていますが、それを次の世代に還元できることほど素晴らしい贈り物はありません。

*オペラ・フォー・ピース(Opera for Peace)は、世界のオペラ芸術発展を目的に設立された非営利団体。社会と将来の世代へ積極的に影響を与える次世代のオペラの専門家を作り出し、文化理解を深めることを実践している。

英国ロイヤル・オペラ『蝶々夫人』でピンカートンを演じるジェイド
Photo: Bill Cooper

――オペラ公演、コンサート、レコーディングなどで多忙を極めていますが、どのように仕事のスケジュールを管理していますか? スケジュール管理をうまくやる秘訣やルールはありますか?

ジェイド:整理整頓は、どんな分野でもプロになる上で最も困難で重要なことです。オペラのように非常に専門的で、参入するのが特に難しい分野ではなおさらです。私は声楽を学ぶために 2 番目の大学に入学した当初、自分が何に取り組んでいるのかまったくわからなかったことを覚えています。ほかの学生の多くは、全員ではないにしても、すでに何年も声楽を学んでいましたから、自分はとても遅れていると感じました。私は大学の学費を払うために 5 つの仕事を掛け持ちしていましたが、グループの中で最も才能があるわけではありませんでした。明らかに傑出した才能を持つ人がいました。八方ふさがりなのは楽しいことではありませんでしたが、私には強い労働倫理がありました。幼い頃から働いていたので、何もタダで手に入ることはないとわかっていたのです。オペラ歌手としてのキャリアを本当に追求したいのであれば、本気で取り組まなければならないこともわかっていました。私は最高のものから最高のものを取り入れました。大学時代の友人の 1 人が楽譜をとてもきちんと整理整頓していたので、彼女のバインダーを借りて、まったく同じものを作りました。また、大学や若手アーティスト・プログラムで何年もかけて、何がうまくいって何がうまくいかないかを熱心に観察しました。 YapTracker* が登場する前、私はニューヨーク市から 400マイル以内にあるすべての若手アーティスト・プログラムとオペラ・カンパニーのスプレッドシートを作成しました。これには、オーディションの一般的な時間、申し込みの締め切り、費用などが含まれています。オーディションを受ける人の数に比べて機会が非常に少ない分野で競争力を高めるには、積極的な精神が必要です。私の使命は明確でした。歌う機会を得るために必要な時間だけ、できるだけ多くの人の前に立つことです。私は長い間それを続け、ありがたいことにそれが報われました。単にその分野にいるだけでなく、トップに立つには、一流アスリートのように、1 つのことに集中する必要があります。

*YapTracker :毎年2500近くのオペラ・オーディションや声楽コンクールを掲載するオンライン・オーディション・マネージャー。

――日本のファンにメッセージをお願いします。

ジェイド:物心ついた頃から、日本を訪れたいと思っていました。理由はいろいろあります。日本の文化、食べ物、歴史に愛着と感謝の気持ちを抱いているのです。オペラが大好きな観客の前で歌えるなんて、もっと素晴らしい。私は調理師の母のもとで育ったので、日本料理を含め、あらゆる食べ物に触れてきました。滞在中にできるだけ多くのことを体験するのが待ちきれません。これが将来の多くの旅行の最初の一歩になればいいなと思っています。

ジェイドが歌うカラフの「誰も寝てはならぬ」は下記よりお聴きいただけます。

https://youtu.be/D_bFWE0xwd8?si=Pa-WviMcehCX6ixf
サンフランシスコ・オペラ公演より(2017年)

公式サイトへ チケット購入

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
『リゴレット』全3幕
『トゥーランドット』全3幕

公演日

ジュゼッぺ・ヴェルディ
『リゴレット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
6月22日(土)15:00 神奈川県民ホール
6月25日(火)13:00 神奈川県民ホール *横浜平日マチネ特別料金
6月28日(金)18:30 NHK ホール
6月30日(日)15:00 NHK ホール

[予定される主な出演者]
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ

ジャコモ・プッチーニ
『トゥーランドット』全3幕

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
6月23日(日)15:00 東京文化会館
6月26日(水)18:30 東京文化会館
6月29日(土)15:00 東京文化会館
7月2日(火)15:00 東京文化会館

[予定される主な出演者]
トゥーランドット姫:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
カラフ:ブライアン・ジェイド
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ

入場料[税込]

S=¥72,000 A=¥62,000 B=¥48,000
C=¥38,000 D=¥32,000 E=¥22,000
U29シート=¥10,000 [全公演対象]
U39シート=¥18,000 [6/22(土)『リゴレット』、6/26(水)『トゥーランドット』限定]
※サポーター席=¥122,000 [寄付金付きのS席 S席72,000円+寄付金50,000円]

横浜平日マチネ特別料金[6/25(火)限定]
S=¥49,000 A=¥42,000 B=¥35,000
C=¥30,000 D=¥25,000 E=¥20,000
U29シート=¥8,000 [全公演対象]
※サポーター席=¥99,000 [寄付金付きのS席 S席49,000円+寄付金50,000円]

公式サイトへ チケット購入

NBS旬の名歌手シリーズ2024-IV 
ソンドラ・ラドヴァノフスキー&ブライアン・ジェイド
オペラ・デュオ・コンサート

公演日

2024年7月6日(土) 15:00

会場:東京文化会館

指揮:ロバート・トゥーイ
演奏:東京交響楽団

入場料[税込]

S=¥23,000 A=¥20,000 B=¥17,000
C=¥12,000 D=¥8,000
U25シート=¥5,000
*ペア割引[S,A,B]あり

※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/opera-duo/