NEW2024/07/17(水)Vol.498
2024/07/17(水) | |
2024年07月17日号 | |
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バレエモーリス・ベジャール・バレエ団 |
撮影NBS
モーリス・ベジャール・バレエ団2024年日本公演に向けてダンサーのインタビューを紹介したシリーズの最終回は、スペシャル・インタビューとして、モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)バレエ・マスターの小林十市さんにフリーライターの小田島久恵さんがインタビュー!
※このインタビューは2023年12月に実施しました。
1989年から2003年までベジャールのカンパニーに在籍し、スター・ダンサーとして主要な役を踊り続けてきた小林十市さん。退団後は日本とヨーロッパでフリーランスのダンサー、俳優として活動し、その後南仏を拠点にバレエ・スタジオを運営する傍らベジャール作品の指導も行っていた小林さんが、2022年から再びローザンヌに戻り、モーリス・ベジャール・バレエ団のバレエ・マスターを務めている。1989年からBBLに14年間在籍した小林さんにご自身とカンパニーの今についてお聞きしました。
――BBLに戻られてきたのは何年ですか?
小林十市:2022年です。2年目の新米です(笑)。2022年の2月に2週間くらい来ているんですよ。東京バレエ団が『火の鳥』をやるというので、その指導をやらせてもらえるならこっちへ来ようと決めていたんですね。ちょうどBBLも7〜8年ぶりに『火の鳥』を再演している時期だったので、どういうふうにリハーサルしているのか見ようと思って。作品を再演するたびにジルは今のダンサーに合わせて細かい微調整を行っているんです。そこから1カ月半くらいして、ジルから電話がかかってきて、何事かと思ったら「今いるバレエ・マスターがやめちゃうんで、十市、来シーズンから来て」って。
――結構急なお話だったんですね。
小林:これはちょっと断れないなと。ジルにはお世話になっていて、もちろんその前からベジャールさんと東京バレエ団創設者の佐々木(忠次)さんの絆というのもあったわけですが、自分はずっと関わらせてもらっているので。ここで恩返ししなきゃという思いが先に来ました。
――BBLをやめられたのは2003年。
小林:怪我が原因でしたが、ダンサーを辞める前にベジャールさんのリハーサルを受け持っていたりという役周りもしていたので、それだけでもいいから「残れば?」とベジャールさんが仰ってくれていたんです。でも、自分が踊らないでダンサーだけを見るというのは精神的にまだ無理だなと思ったので断りました。踊れなくなったのならスパッと辞めちゃいたかった。でも、19年ぶりに戻ってきたカンパニーには同僚だったジュリアン(・ファヴロー)とエリザベット(・ロス)がまだいて、ドメニコ(・ルヴレ)もリハーサルを受け持っている。今回の公演(2023年12月ローザンヌ)はディレクターのジルも踊るので、僕が前に座って責任を持って見届けないといけないので、何かが巡ってきたような、そういうタイミングなんだなと思いました。
――今回のローザンヌ公演にはクリスティーヌ・ブランさんも『コンセルト・アン・レ』の指導にいらしていますね。
小林:南仏のバレエ・スタジオはクリスティーヌとやっていたんですけど、結局コロナで生徒が減ってしまって、続けるのが大変だったのと、クリスティーヌ自身が病気したりとかあったんです。ジルは外のカンパニーのベジャール作品の指導にちょくちょく僕を送ってくれて、フランスでの指導を任せてくれて。トゥールーズ・キャピトルのバレエ団に『火の鳥』を指導に行ったり、バレエ・サンディアゴにクリスティーヌと二人で『魔笛』を教えに行ったりしていました。
――小林さんはジョルジュ・ドンさんが在籍していた頃のカンパニーのことも知っていて、「濃い」ベジャール・ダンサーもたくさん見られてきたと思うのですが、ベジャール作品を踊るのに必要なエッセンスは何だと思われますか?
小林:例えば『バレエ・フォー・ライフ』に関して言うと、僕らは相当練習したし、ベジャールさんが求めるものもレベルが高かったし、「ここに行こう!」っていう毎日の切磋琢磨が凄かったから、20年前の完成度を今再現するのは、正直な話大変なんです。もちろん、ベジャールさんに言われたこと、ジルに言われたことというのは、僕は全部伝えます。僕がそこ(上演のクオリティの頂点)を知っているから、そこまで行かせたいと思っているんです。
――ダンサーもずいぶん変わったと思います。
小林:ベジャール作品に関して言えば、みんなすぐに踊っちゃう。バレエ団に入ってすぐに。僕の時代は、ある程度の下積み何年じゃないですけど、修業期間みたいなのがあって、段階段階を踏んで来たけれど、それが今はパッパッってキャスティングされちゃうんですね。
――下積みが少ないのですね。『バレエ・フォー・ライフ』では小林さんの「ミリオネア・ワルツ」が忘れられません。
小林:96年の年末にローザンヌでプレビュー公演があって、97年の年明けに世界初演という形でパリで上演されたんです。「ミリオネア・ワルツ」は僕に振付けられて、しばらく踊ったんですけど、「ウィンターズ・テイル」を踊っていたクーン・オンズィアが辞めたので、ジルがこれを踊ることを勧めてくれて、指導してくれました。ベジャールさんにとって僕がこのパートを踊ることはイメージになかったので、当日の舞台稽古も見にいらっしゃいませんでしたが、本番の後に『よかった』と言ってくれました。
――実際にダメ出しをしていたのはジルさんだったと。
小林:当時はもちろんベジャールさんとジルでしたけど、今ではもちろん芸術監督(2023年12月当時)のジルがダメ出しをし、僕はそれをノートにとって今後の稽古に繋げます。今年なぜか一番多いダメ出しが『バレエ・フォー・ライフ』だった。不思議ですよね(笑)。ダメ出しはジル作品よりベジャール作品の方が圧倒的に多いです。『火の鳥』も『ギリシヤの踊り』もダメ出しをしないと簡単に崩れてしまう。ただ踊っているだけになっちゃうんですね。
――今日もクラスレッスンを拝見しましたが、小林さんの指導でダンサーたちがレッスンしている様子は、とても活き活きしていました。
小林:クラスを見ているとね、人間ってみんなこう、上下があるでしょう。日々そういうのが見えるんですよね。たまに「おはようございます」「はじめます」の一言が言えない雰囲気の時があるんですよ。空気の重さみたいなのをめちゃくちゃ感じるときもあります。
――今日のクラスは公演前の高揚感が感じられました。南仏でスタジオをやられていたお話が出ましたが、小林さんは久々にローザンヌに引っ越されてきたわけですね。
小林:住むのは20年ぶりくらいです。街もだいぶ変わって、凄く都会っぽくなって、色々お店も変わりましたね。そうした街並みを、当時持っていなかったバイクで走るのが自分の楽しみのひとつです。カンパニーを辞めたときは二度とスイスに戻ってくることもないと思っていましたが、今はバレエ団に恩返しをしたいという思いが強いです。あと、元ベジャール・ダンサーは、たいがい自分が踊っていた時代がベストだと思って絶対比べるんですが(笑)、出戻りの自分は今のダンサーのいいところを見守って、助けになれればと思います。
取材・文 小田島久恵 フリーライター
【東京公演】
9月21日(土)13:30
9月22日(日)13:30
9月22日(日)18:00
9月23日(月・祝)13:30
会場:東京文化会館
9月27日(金)19:00
9月28日(土)13:30
9月28日(土)18:00
9月29日(日)13:30
会場:東京文化会館
※音楽は特別録音による音源を使用します。
S=¥23,000 A=¥16,000 B=¥14,000 C=¥11,000 D=¥7,000 E=¥6,000
U25シート=¥3,000 SP*=¥21,000
*SP席は1階LRブロックの端寄りのエリアです。舞台に近いお席ですが、演出のため一部見切れがございます。予めご了承の上お求めください。
【西宮・札幌公演】
10月2日(水)
会場:兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
お問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス
0798-68-0255 (10:00〜17:00 月曜休み ※祝日の場合翌日)
https://www.gcenter-hyogo.jp/
10月6日(日)
会場:札幌文化芸術劇場hitaru
お問い合わせ:道新プレイガイド
0570-00-3871 (10:00〜17:00 日曜定休)
https://doshin-playguide.jp/