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2021/07/07(水)Vol.425

80歳を目前にした
リッカルド・ムーティの近況
2021/07/07(水)
2021年07月07日号
TOPニュース

80歳を目前にした
リッカルド・ムーティの近況

エネルギッシュなマエストロ
「うんざりしている」発言!?

7月28日に80歳の誕生日を迎えるマエストロ・ムーティだが、年齢を感じさせないエネルギッシュな活躍を続けている。音楽監督を務めるシカゴ響には昨年3月以来一年半近く戻れていないが、このところ感染者が減少して劇場が再開しているイタリアでの演奏活動で多忙を極めている。

6月19日には41年ぶりでヴェローナのアレーナに登場した。ヴェルディの代表作である『アイーダ』の初演から150年を記念する特別な公演ということで異例の出演となった。普段は2万人の観客を収容するアレーナだが、感染予防で観客は6千人に制限された。1913年にこの円形屋外競技場で夏のオペラ公演が始まった時のオープニングが『アイーダ』であり、この演目はアレーナのシンボルともいえる作品だ。公演はコンサート形式で行われたが、大きな期待が寄せられていた。

「私にとっても『アイーダ』は記念の作品と言えます。1973年に初めて外国の偉大な劇場(ウィーン歌劇場)で指揮したオペラですから」と語るマエストロだが、この作品の本質に触れてもらいたいと言う。「誰もが『アイーダ』と聞くと第2幕の凱旋の場を思い浮かべるでしょう。スエズ運河開通記念のお祭り的な雰囲気を出すための場面が派手な舞台を作り上げるわけですが、この場面のためにこの作品の本質が隠れてしまっているのです。凱旋の場面は絢爛豪華である必要はないと思います。それよりも文化文明や宗教の違いによる国と国との戦い、人種差別や難民の問題など今日でも続いている人類の永遠の問題に目が向けられている深い意味のある作品だと感じて欲しいです」
もちろん、観客の期待に応える素晴らしい演奏になった。

2回の公演を無事成功のうちに終えたマエストロはラヴェンナに帰ってすぐケルビーニ管とのリハーサルに入った。7月1日にはラヴェンナ・フェスティバルの「友情の道」の企画のもとにアルメニアとの交流によるコンサートがラヴェンナ郊外のルーゴで行われ、シューベルトの交響曲第8番「未完成」とハイドンの「テ・デウム」が演奏された。4日にはアルメニアの首都エレヴァンで同じプログラムが演奏される。 ケルビーニ管とのコンサートはこの後も7月10日はカゼルタ、12日はヴェネツィアそして14日はタオルミーナのベッリーニ・フェスティバルに参加し16日には再びラヴェンナと続く。

コンサートでは常に元気溌剌な姿を見せているマエストロだが、6月27日に掲載されたコリエレ・デッラ・セーラ紙のインタビューが波紋を呼んでいる。「80歳になってどう感じますか?」との質問に「生きていることにうんざりしている」と答えたのだ。世の中があまりにも変わってしまってついて行けなくなってきたからという理由だそうだ。今年になってあまりにも多くのインタビューで80歳になる気持ちを聞かれてウンザリしてこう答えたのだろうか? 80歳までもう間近である。これからも益々お元気で素晴らしい音楽を演奏し続けていただきたい。

文 田口 道子

アレーナ・ディ・ヴェローナのサイトではムーティ指揮『アイーダ』公演の PV が見られます
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