ハンブルク・バレエ団「ニジンスキー」(全2幕) バレエ界の神話となった男、ニジンスキーの光と闇が交錯する人生、そして魂

アメリカと英国で同時代を生き、
対照的なスタイルを確立した両巨匠の代表作が揃い踏み!

Photo:Kiyonori Hasegawa

「真夏の夜の夢」

 奇しくも同年に生まれ、各々、アメリカと英国でバレエの礎を築いた振付家の代表作が、春たけなわの東京で揃い踏みをする。ジョージ・バランシン(1904〜1983)の『セレナーデ』とフレデリック・アシュトン(1904〜1988)の『真夏の夜の夢』である。
 今回、東京バレエ団が初めて取り組む『セレナーデ』は、アメリカのバレエの育ての親であるバランシンが、1934年に彼の地で初めて振付けた新作だ。
 創設間もないスクール・オブ・アメリカン・バレエの授業時に創った“教材”ゆえ、『セレナーデ』には古典バレエばりに美技を誇示する場面はない。しかしチャイコフスキーの「弦楽セレナード ハ長調」にのってダンサーが颯爽と踊り始めるや、めくるめく躍動感が溢れ出す。全編を貫くこの躍動感は、帝政ロシア生まれのバランシンが新天地アメリカに見出した活力であり、彼が手塩にかけて育て上げたアメリカン・バレエの出発点にほかならない。
 音楽の機微をステップで随意に描き出すアブストラクト仕立てであることも、『セレナーデ』の特色のひとつ。冒頭のゆったりとしたソナチネは優美なワルツに転じ、軽快なロシアの主題を経て、幻想的なエレジーで締めくくられる。具体的なプロットを介さないとはいえ、否、物語の枝葉を取り除いたからこそ、月明かりを思わせるほの暗い照明の下で舞う男女の姿は物語に通じる陰影を宿し、女性達がチュチュをひるがえして乱舞する情景はロマンティック・バレエの幻想シーン、あるいはロシア・バレエの華麗な舞踊絵巻を彷彿させる。
 『セレナーデ』には、バランシンがロシアで親しんだ伝統的なバレエの趣と、彼がアメリカで育もうとしていたバレエの行く方が凝縮(=アブストラクト)されているのだ。
 『水晶宮』『テーマとヴァリエーション』といった、古典色を前面に出したバランシン作品を上演してきた東京バレエ団のダンサーが、『セレナーデ』のアメリカらしさをどう体現するのか、興味深い。
 一方、英国バレエの立役者、アシュトンが真骨頂を発揮したのは物語バレエであり、『真夏の夜の夢』は彼が熟達した手腕をふるった作品だ。
 原典はシェイクスピアの言わずと知れた表題喜劇で、ささいなことから仲違いをした妖精の王オベロンと女王タイターニアに、悪戯な妖精パック、人間の恋人達が加わり、恋のさや当てを賑やかに繰り広げる。その語り口は明晰にして洒脱。古風な韻を踏んだ戯曲は、アシュトンの手を経て洗練されたロマンティック・コメディに生まれ変わったのだ。
 タイターニア以下の妖精達の振付はアシュトンらしさ満載で、細やかな手足の動きに彩られた跳躍や回転を繰り返し、まるで宙を舞っているかのよう。意表を突くリフトが織り込まれたデュエットは、ロマンティックかつスリリングだ。
 ただしタイターニアとオベロンの痴話喧嘩にはどこか人間味があり、惚れ薬を振りまいて騒動を巻き起こすパックが笑いを誘う。パックの悪戯でロバに変身させられる職人のボトムにいたってはトゥシューズを履き、英国バレエになくてはならない(?)被り物をかぶって愛嬌を振りまいてみせる。なんと愛すべきキャラクター達だろう。
 シェイクスピア生誕400周年にあたる1964年の初演時にタイターニアとオベロン役に抜擢されたのは、名コンビとして一時代を築くことになるアントワネット・シブレーとアントニー・ダウエル、パック役は稀代のキャラクターダンサー、アレクサンダー・グラント。掌中の珠を愛でるように振付にいそしんだ、アシュトンの様子が目に浮かぶようだ。
 物語を語ることと趣向を凝らした振付の妙を絶妙のさじ加減で調合した『真夏の夜の夢』は、『シンデレラ』や『リーズの結婚』といった、馥郁たるユーモアに彩られたアシュトン作品の系譜に連なる逸品である。
 東京バレエ団での十年ぶりの再演にあたり、主役陣には初役の新鋭が登場する。 タイターニアを演じるのは、可憐な表情を身上とする沖香菜子。オベロン役に客演するシュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルは、2018年3月に同役をフロリダ州のサラソタ・バレエで踊った後、日本での初披露を迎える。パック役には、キレの良いテクニックで定評のある宮川新大が起用された。
 アメリカと英国で同時代を生き、対照的なスタイルを確立した両巨匠の作品を堪能する好機が訪れる。

東京バレエ団「真夏の夜の夢」「セレナーデ」
2018年日本公演

「真夏の夜の夢」フレデリック・アシュトン
「セレナーデ」ジョージ・バランシン

【公演日】

2018年
4月28日(土)3:00p.m.
4月30日(月・祝)3:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

「真夏の夜の夢」 オベロン: フリーデマン・フォーゲル
タイターニア:沖香菜子
パック:宮川新大
「セレナーデ」 *振付指導のベン・ヒューズにより後日決定。

【演奏】

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥12,000 A=¥10,000 B=¥8,000 C=¥6,000 D=¥5,000 E=¥4,000
エコノミー=¥3,000 学生券=¥ 2,000

*エコノミー券はe+のみで、学生券はNBS WEBチケットのみで3/23(金)より発売。
★ペア割あり[S,A,B席] ★親子ペア割あり[S,A,B席]