モーリス・ベジャール没後10年記念公演 モーリス・ベジャール・バレエ団 2017年日本公演 モーツァルトの傑作オペラが、まるごとダンスに!鬼才ベジャールによる奇跡のバレエ 「魔笛」

バレエを観ることでオペラが観たくなり、
オペラを観た後はまたバレエが観たくなる!
特別な魔力をもつバレエ『魔笛』

Photo: Anne Bichsel

パパゲーナとパパゲーノ、3人の童子が見守る

 モーリス・ベジャール(1927~2007)は80年の生涯で膨大なバレエ作品を制作したが、観る者にとっての驚きは各々の振付の斬新さだけでなく、使用する音楽の多彩さにもあった。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、チャイコフスキー、ラヴェル、ストラヴィンスキーは勿論、マーラー、ワーグナー、バルトーク、ウェーベルン、黛敏郎、インドやイスラムやギリシアやアボリジニの伝統音楽、ピエール・アンリの電子音楽、ジャズにデューク・エリントン、シャンソンにニーノ・ロータ、タキシードムーンやロックバンドのクイーンまで、まるで「ダンスに出来ない音楽はない」と言わんばかりに、ベジャールは音楽を自由な素材として引き寄せ、舞踊と一体化させた。無音や鳥の鳴き声さえ、ベジャールはダンスにしたのだ。ベジャール・ダンサーとは、最も多彩でユニークな音楽をまとった、振付家の哲学の伝道者であった。
 オペラとバレエの融合もまた、演劇全般に精通するベジャールにとっては自然なことだった。ワーグナーの曲の断章を使用した『ヴェヌスブルク』(1965)、『ワーグナー、あるいは狂気の宴』(1965)といった作品は60年代から制作されており、他にもレハールのオペレッタ『メリーウィドウ』(1963)やオッフェンバックの『ホフマン物語』(1961)もバレエ化されている。最も有名オペラ=バレエは、1981年にブリュッセル王立サーカスで初演されたモーツァルトの『魔笛』と、1990年にベルリン・ドイツ・オペラで初演したワーグナー《ニーベルングの指環》だろう。上演に四夜を要するワーグナーの《指環》はバレエ化にあたってダイジェスト版となったが、『魔笛』はモーツァルトのオペラ全体を使い、ジングシュピールの台詞部分も踊られる。上演時間はオペラと同じく3時間で、舞台で展開されるのはオペラと同じストーリーなのだ。上演にはカール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の1964年の録音(ドイツグラモフォンの歴史的名盤)が使われ、この録音ではフリッツ・ヴンダーリヒがタミーノ、フランツ・グラスがザラストロ、ロバータ・ピータースが夜の女王、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウがパパゲーノを歌っている。

   
Photo: Anne Bichsel

夜の女王と娘パミーナ

 タミーノが恐怖のあまり気を失う冒頭の龍は、獅子舞などの日本の祭りの出し物を思わせる。舞台はベジャールの他の作品がそうであるようにごくシンプルだが、美術のそこかしこに暗示的なフリーメイソンの徴を見つけることができる。モーツァルト・オペラの中でも『フィガロの結婚』などの『ダ・ポンテ三部作』を選ばなかったのは、ダ・ポンテ作品が「現実の人間を描いたオペラだから」とベジャールは語る。振付家は、おとぎ話の夢想性と、通過儀礼の密教性という相反する要素が共存する『魔笛』のミステリアスな作風こそバレエに相応しいと信じていた。まさにベジャールのバレエも「童心に帰るようなワクワクした楽しさ」と「秘密結社的なミステリー」が同居している。
 タミーノとパパゲーノ、狂言回しの弁者はベジャール版では役者なみに多くの台詞を語る。パパゲーノにはトリックスター的な「ハジけた」魅力をもつダンサーがキャスティングされることが多いようだ。タミーノとパミーナは若く美しく、綺麗な脚を揃えて踊る三人の魔女はコケティッシュ、三人の童子もユーモアたっぷりだ。オペラに愛着のある人なら、「夜の女王のアリア」は是非とも観るべき。天をつんざく雷のような高音に合わせて、女王は蜘蛛のように床を這い、節足動物のように脚を上げてパミーナに剣をもたせる。歌手のビブラートとともに、夜の女王役のダンサーもブルブルと痙攣するのだ。そして高僧ザラストロは、昔からベジャールのバレエ団の最も美しい男性ダンサーによって演じられてきた。高貴な僧だけが身に着けることを許された黄金色のコスチュームを纏い、バスの声に合わせてゆったりとした動きで、カリスマ的な存在感を醸し出していく…‥体格のいいバス歌手が重そうな衣裳をつけて渋い声を出すオペラ上演と、一番異なるところだろう。バレエを観ることでオペラが観たくなり、オペラを観た後はまたバレエが観たくなる。日本では13年ぶりのベジャール版『魔笛』は、特別な魔力をもつバレエなのである。

没後10年記念特別公演
モーリス・ベジャール・バレエ団

Aプロ
「魔笛」

【公演日】

2017年
11月17日(金)6:30p.m.
11月18日(土)2:00p.m.
11月19日(日)2:00p.m.

Bプロ
「ボレロ」「ピアフ」
「アニマ・ブルース」「兄弟」

【公演日】

2017年
11月25日(土)1:30p.m.
11月25日(土)6:00p.m.
11月26日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

Aプロ 「魔笛」 振付:モーリス・ベジャール 音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
Bプロ 「ボレロ」 振付:モーリス・ベジャール 音楽:モーリス・ラヴェル
「ピアフ」 振付:モーリス・ベジャール 音楽:エディット・ピアフ
「アニマ・ブルース」 振付:ジル・ロマン 音楽:シティパーカッション(ティエリー・ホーシュテッター&jBメイアー)
「兄弟」 振付:ジル・ロマン 音楽:モーリス・ラヴェル、エリック・サティ、吉田兄弟、美空ひばり、シティパーカッション(ティエリー・ホーシュテッター&jBメイアー)

【入場料[税込]】

S=¥17,000 A=¥15,000 B=¥13,000 C=¥10,000 D=¥8,000 E=¥6,000