ハンブルク・バレエ団 2018年日本公演 巨匠ノイマイヤーのもと狂気も伝説も、すべてが美しく昇華する

Photo:Holger Badekow

 3作品それぞれに趣の異なる、しかしいずれもノイマイヤーの核心に迫るバレエだ。巧妙に仕組まれた三面鏡さながら、3面合わせて振付家の全貌が見えてくるだろう。 『椿姫』は振付家が39歳の時に、古巣のシュツットガルト・バレエ団に振付けた物語バレエである。原作はデュマ・フィスの自伝的小説。同じ題名の人気オペラがあるが、このバレエは音楽に物語と同時代のショパンの作品を用いた。そのために当時のパリや近郊の雰囲気、また恋人たちの切ない心情が、繊細で情感豊かな曲想に乗せて描かれている。
 同じ小説を元に作られたバレエは幾つかあるが、ノイマイヤーのバレエは原作に最も近い。甘美な恋や別れた後の愛と絶望が交錯するさまなど、複雑な恋の心理を濃やかに描いて、舞台はまるで小説を読むような気分だ。
 見所は主人公マルグリットとアルマンが踊る3つのパ・ド・ドゥ。この恋物語を凝縮して見せてくれる。第1幕の告白のパ・ド・ドゥはアルマンのひたむきな恋心が年上の高級娼婦の心を次第に動かしていく過程。彼女に触れることもできず、でも心身を投げ出して訴える青年の純愛が切ない。そして第2幕、結ばれて恋の歓びを歌い上げるパ・ド・ドゥは、私がこれまで見た中で最も美しい踊りだった。だが一番胸に迫るのは第3幕、黒衣のパ・ド・ドゥと呼ばれるそれだ。別れた後、彼女を愛すればこそ傷つけずにいられないアルマンを、憔悴したマルグリットが訪れる。そして今なお消しがたいふたりの愛が狂おしく花火のように炸裂する。
 20世紀後半は多くの傑作バレエを世にもたらしたが、そのなかでも『椿姫』は未来に残る最大の作品ではないかと思う。

    

Photos:Kiran West

 

 『ニジンスキー』は20世紀初頭に世界を熱狂させた天才ダンサーの肖像である。主人公に複数の分身を設定するといった、理詰めに重層した構成は、ある意味、最もノイマイヤーらしい手法と言えるかもしれない。
 第1幕は天才ダンサーの光の部分。場面は彼の最後の舞台となったスイスのホテルで、名士が集うなか登場したニジンスキーは、期待を裏切る奇妙な動きを見せる。そして父や兄、妻ロモラ、ディアギレフが登場し、生涯のエピソードが語られるなか、過去の名演が再現する。「薔薇の精」「シェエラザード」の金の奴隷、「レ・シルフィード」「牧神の午後」など、後世が写真でしか見たことのないダンスは、それだけでも目を奪う見所だ。
 第2幕はニジンスキーの内面に分け入る。愛される若者だが、兄と同じ精神疾患に怯え、天才ダンサーでありながら、先駆的な表現者として人々の無理解に直面する。そうした分裂した内面の混乱と闇を、他でもないダンスという身体表現で具現するのが後半である。圧倒的なダンスの数々は、ニジンスキーの苦悩を彷彿とさせるが、同時に、彼に身を託した振付家ノイマイヤーの内面をも想起させずにおかない。思えばノイマイヤーは、実にバレエ史上初めて自身の内面を語る術を得た舞踊作家と言えるのではないだろうか。
 そこに浮かび上がるのは〈時代〉という巨大な力だ。過去と未来、そして第一次世界大戦のさなかにある現在。そうした時代認識もまたノイマイヤーの特徴の一つである。

 
Photo:Kiyonori Hasegawa
 

 〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉はこれまでの傑作のオン・パレード。振付家自ら自身の会心の作を若い頃から時代順に並べている。京都賞を受賞した翌年に東京で初演されたこの作品は、大成した振付家が実り豊かな人生を振り返る幸せな感慨に満ちている。
 ノイマイヤーの名場面、その全貌を見たと満足するだけで十分価値のある舞台だが、じつはさほど単純でもない。ごく若年のアメリカ時代から年を追うにつれ、そのテクニックが、その語法がどのように深まり、展開したのか、そのありさまが如実に見えてくるからだ。いわば振付家自身による自作の解説、秘訣の解明だ。その着眼点と説得力は、あなたのバレエを見る目を更に深めてくれるはずだ。           

ハンブルク・バレエ団
2018年日本公演

「椿姫」プロローグ付全3幕

【公演日】

2018年
2月2日(金)6:30p.m.
2月3日(土)2:00p.m.
2月4日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される演目】

マルグリット: アリーナ・コジョカル(2/2)、 アンナ・ラウデール(2/3)、 エレーヌ・ブシェ(2/4)
アルマン: アレクサンドル・トルーシュ(2/2)、 エドウィン・レヴァツォフ(2/3)、 クリストファー・エヴァンズ(2/4)
マノン: シルヴィア・アッツォーニ(2/2)、 カロリーナ・アグエロ(2/3)、 有井舞耀(2/4)
デ・グリュー:アレクサンドル・リアブコ(2/2)、 クリストファー・エヴァンズ(2/3)、 カレン・アザチャン(2/4)

ガラ公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉

【公演日】

2018年
2月7日(金)7:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される演目】

カンパニー総出演

「ニジンスキー」全2幕

【公演日】

2018年
2月10日(土)2:00p.m.
2月11日(日)2:00p.m.
2月12日(月・祝)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される演目】

ニジンスキー: アレクサンドル・リアブコ(2/10 、2/12)、 アレクサンドル・トルーシュ(2/11)
ディアギレフ: イヴァン・ウルバン(2/10 、2/12)、 カーステン・ユング(2/11)、ロモラ:エレーヌ・ブシェ(2/10 、2/12)、カロリーナ・アグエロ(2/11)

【入場料[税込]】

S=¥23,000 A=¥20,000 B=¥17,000 C=¥14,000 D=¥11,000 E=¥8,000
エコノミー=¥6,000 学生券=¥ 4,000

*エコノミー券はe+のみで、学生券はNBS WEBチケットのみで12/22(金)より発売。

先行発売期間に、セットでお買い上げいただくと、最大で9,000円お得!

セット券特別割引 [S, A, B席]

・「椿姫」「ニジンスキー」〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉のうち、2演目または3演目を同時に、同一枚数お買い上げいただくと、販売期間別に下記の金額を割引します。
・セット券はS、A、B席を対象とし、公演日およびS、A、B席の別は自由にお選びいただけます。


■NBS WEBチケット先行発売期間(9/15~9/27)
S:1枚につき3,000円、A:1枚につき2,500円、B:1枚につき2,000円
■一斉発売後(10/7以降~)
S、A、Bとも1枚につき1,000円割引 ※NBSのみ

NBS WEBチケット特別先行割引 [S, A, B席 単独券]

S:1枚につき2,000円、A:1枚につき1,500円、B:1枚につき1,000円