2017年9月日本公演 バイエルン国立歌劇場 キリル・ペトレンコとは!? “クライバーに比肩する”と評される天才!

すでに何度も年間最優秀指揮者に選ばれた実績は
“未来の巨匠”を証明!

Photo:Wilfried Hoesl

 キリル・ペトレンコ(1972年生まれ)の名前がオペラ・ファンのあいだで最初にクローズアップされたのはいつだったか。ワーグナーの仮面をかぶったヴォータンを登場させるなど解釈とヴィジュアル面で注目を集めた、マイニンゲン歌劇場における《ニーベルングの指環》(2001年、演出クリスティーネ・ミーリツ、舞台美術アルフレート・フルドリチカ)を、当時ドイツで最年少の音楽総監督として指揮したときだろう。ミーリツはペトレンコの集中力にあふれた仕事によって上演が成功に導かれたことを感謝し、彼の輝かしい前途を予言していた。
 2002年、ベルリン・コーミッシェ・オーパーに、ハリー・クプファーの後任として、アンドレアス・ホモキが首席演出家に就任するにあたり、ペトレンコを音楽総監督に招聘した。そしてスメタナ『売られた花嫁』の新演出で、コーミッシェ・オーパーの新しい時代の幕を開けたのである。以後、オペレッタからモーツァルト、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ、リヒャルト・シュトラウスに加え、ロシア出身という持ち味を生かしたチャイコフスキーやヤナーチェク、ショスタコーヴィチの作品を指揮して、オールマイティなオペラ指揮者として活躍することになる。
 2007年にペトレンコはコーミッシェ・オーパーを離れるが、同年「オーパンヴェルト」誌上で批評家たちの投票により、コーミッシェ・オーパーが年間最優秀オペラハウスに選ばれ、ペトレンコ自身も年間最優秀オペラ指揮者に選出された。彼の『ばらの騎士』をカルロス・クライバーに比肩するものと賞賛する批評があり、またコーミッシェ・オーパーにおける「ペトレンコ時代」を、1920年代のベルリン・クロール・オーパーにおけるオットー・クレンペラーの時代に匹敵するとした批評家もいた。
 その後しばらくペトレンコはフリーランスとして各地のオペラハウスに客演するのだが、2009年にはフランクフルト歌劇場におけるプフィッツナー『パレストリーナ』(演出クプファー。ライブCDが発売されている)等の成果で、ふたたび年間最優秀オペラ指揮者に選出される。アン・デア・ウィーン劇場でのヤナーチェク『カーチャ・カバノヴァー』(演出K・ウォーナー)で共演した歌手のアニヤ・シリヤは、ペトレンコについて「非常に人間的には謙虚で親切でありつつ、容赦ない厳密さをオーケストラと合唱およびソリストに要求し、それを達成することができます。なぜならば誰もが彼のために最善をつくすことを望み、彼を失望させたくないと考えるからです」と、自分の長いキャリアで出会った指揮者のなかで、アンドレ・クリュイタンスとならぶ最高の存在と評価している。
 2013/14年のシーズンからはケント・ナガノの後任として、ドイツのオペラ界でも最高のポストのひとつバイエルン国立歌劇場の音楽総監督に迎えられた。2008年からバイエルン国立歌劇場の総裁(インテンダント)の座にあるニコラウス・バッハラーとペトレンコの関係は、バッハラーがウィーン・フォルクスオーパーの総裁を務めていた時代(1996〜99)にさかのぼる。ペトレンコはウィーン国立音楽大学を卒業すると、ただちにバッハラーによってフォルクスオーパーに採用され、1997年から1999年までカペルマイスターとして在籍したのだ。ちなみに当時フォルクスオーパーで首席指揮者を務めていたのがアッシャー・フィッシュである。
 ペトレンコは西シベリアのオムスク生まれだが、ソ連邦国家芸術家の称号を得ていたヴァイオリニストの父が冷戦の終結した1990年にフォアアールベルク交響楽団に移籍したのにともない、18歳でオーストリアに移住している。ドイツ・オーストリア文化のなかでペトレンコが音楽家として成長したということは見逃してはならない事実だ。
 2013年の夏にはバイロイト音楽祭で新制作された《ニーベルングの指環》(演出フランク・カストロフ、舞台美術アレクサンダー・デーニック)の指揮で大成功をおさめる。同年秋からはバイエルン国立歌劇場の音楽総監督として活動を開始し、R・シュトラウス『影のない女』、モーツァルト『皇帝ティトの慈悲』、ツィンマーマン『軍人たち』の新制作などを2013/14年のシーズンに手掛け、バイロイトでの成果とあわせて2013年の年間最優秀オペラ指揮者に選ばれた。2014/15年のシーズンはドニゼッティ『ルチア』とベルク作曲『ルル』の新制作と《ニーベルングの指環》などをバイエルン国立歌劇場で指揮、もちろんバイロイト音楽祭にも出演し、最優秀オペラ指揮者に二年連続で選出されている。
 2015年にはサイモン・ラトルの後任としてベルリン・フィルの次期首席指揮者兼芸術監督に選ばれ、ペトレンコの知名度は日本でも急上昇した。これまで来日の機会がなく、メジャーレーベルによるCD録音もないことから、「無名の指揮者」をベルリン・フィルが選んだというような報道もされたが、ウィーン、ベルリン、ミュンヘンというドイツ・オーストリアの三大文化都市で、優れた音楽づくりによって、聴衆ばかりでなく共演する音楽家たちをも魅了してきた実績はあなどれない。ワルター、フルトヴェングラー、カラヤンといった過去のスター指揮者とは異なる資質をもった、同時代の、そして未来の巨匠であるペトレンコがつむぎだす音楽を体験できる機会がもうすぐやってくる。

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