オレリー・デュポンはパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督に8月に就任した。
オペラ座引退後も海外のガラに参加し、ダンサー活動も喜びをもって続けている彼女。
来年2月22日と23日、オーチャードホールで東京バレエ団とともにモーリス・ベジャールの名作「ボレロ」を踊ることを今から心待ちしている。
「シルヴィ・ギエムの舞台が最初だったと思います。オペラ座でガラがあったときに、彼女がゲストとして「ボレロ」を踊ったときです。それまでにジョルジュ・ドン、プリセツカヤの演技をビデオでは見ていたけれど、実際に舞台で踊られるのを見たのはこれが初めて。まだ若かったときだけれど、今すぐ自分もこれを踊りたい! って思いました。16歳のときにピナ・バウシュの「春の祭典」を見たときも、そうだったわ。私が初めて「ボレロ」を踊れたのはオペラ座のニューヨーク公演のときで、2012年。長いこと許可がでるのを待ったわけだけど、人生はよくできていると思ったわ。取り組むのに相応しい年齢になっていたし、踊るのを待ち焦がれていた作品なので、もう、これ以上ないというほど舞台を満喫することができたのだから」
「オペラ座でこの作品のリハーサルコーチであるファブリス・ブルジョワとまず稽古を始め、ジルに見せられるところまで準備できた段階で、ローザンヌに行きました。これを踊る上で彼から最も求められたのは、音楽性、そして何よりも正確さですね(両手首の内側を揃えるポーズをしながら)。最後まで正確さを保ち続ける必要があります。自由に動いているようにみえても、毎回同じ動きの正確さに必ず戻る必要があるんです」
「ラヴェルのこの音楽は聴くだけでも素晴らしいものだけど、これにのせて踊るのは信じられないくらいの喜びが得られるんです。リズムの繰り返しが長くつづく音楽で、とても疲れるダンス。でも、最後には素晴らしい感覚が得られることがわかっているので、体の中で疲労が増してゆくのを踊りながら待ってしまうんですよ。徐々に疲労してゆき、あるところでトランス状態に陥ります。疲労の極にいて、もう何も思い出せない、という感じ…‥これはとても快感です。
「ボレロ」を踊って得られる感覚というのは、再び感じてみたいと待ち焦がれるもの。今回の公演は、前回踊ったときから年齢を重ねているので、私の体がどう反応するのかもとても興味深いです。この作品ってとても個人的なものだと、私は思っています。なぜかというと、疲れ切ったところで、もう嘘がつけない、飾れない…‥裸のような状態となります。それが美しいのですが、それゆえにダンサーによって異なる「ボレロ」となるのです。面白いですね。
ステージ上に設けられたテーブルの上に立つとき、私は過去に「ボレロ」を踊ったダンサーに思いを巡らせずにはいられません。これは私にとっては贈り物のような作品。もしこれを踊っていなかったら、ダンサーのキャリアにおいて大切なことを逃したことになっていたと思います。ダンサーなら誰でも一度「ボレロ」を踊るべきだと、私は思っています。この作品を経験すること、この作品から得られる感覚を知ることによって、その後のダンスが変わりますから」
「彼とはオペラ座で「コンクール」の創作を一緒にしました。よく笑うし、ユーモア溢れる、とても優しい人でしたね。それにとてもポジティブで。彼の作品はとてもモダーンだと思います。「ボレロ」は音楽と振付が同様の力強さを持つ珍しい作品。時代にすたれることがなく、現代の作品だと言ってもいいくらいで、踊る喜びが常にあって…‥これは傑作です」