英 国ロイヤル・バレエ団 2016年日本公演 英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル サラ・ラム インタビュー 美貌とテクニックと表現力を備えるサラ・ラム。 バレエ団きっての知性派がみつめるのは生死より愛を選びとるジュリエット、現代の人が共感できるジゼル

妖精のような美貌の持ち主は、またバレエ団きっての知性派でもある。サラ・ラムは英国ロイヤル・バレエ団の中軸を担う米国出身のプリンシパルだ。 強靱なテクニックと端正な踊りに加え、細部まで練られた表現と重層的な役作りは、批評家やファンからも高い評価を得ている。
このところキャリアの最も充実した時期に差しかかった感もあり、6月の日本公演でも名演が期待できそう。日本公演の2作品を中心にお話をうかがった。

PPhoto:Alice Pennefather

「ロミオとジュリエット」

――幕が上がった直後、ジュリエットはまだあどけない少女ですが、作品の中で一人の女性へと変化を遂げます。

ラム:当時のヴェローナの社会において、パリスとの結婚は当然ごとくジュリエットに期待されている未来でした。しかし物語が進むにつれ、まだ思春期の始まりにいた少女は大人の女性に成長し、自分の将来に対して完全に主導権を握り、決断を下すようになります。
 ダンサーとしてこれを表現するのは大変です。ジュリエットは2幕でほとんど出番がなく、成長の段階は舞台の外で起きていることになっています。そして3幕で舞台へ戻って来た時、その変化を表さなくてはいけません。(ジュリエットがベッドに腰かけ、考えをめぐらせる)モノローグの場面を通じて彼女は賢くなり、もう子どもではなくなります。信じられるのは自分自身とロミオだけになるのです。3幕では母がわりの乳母や父親との絆も断ち切られます。しかし仮死状態になる秘薬を持っているために、実は決定権はジュリエットが握っているのです。

――3幕でジュリエットが秘薬を飲むシーンは作品の要所です。

ラム:あの場面でジュリエットは怖くて仕方ないんです。あの時に彼女が切望しているのは母親か乳母か、誰か彼女を救ってくれる人です。しかし彼女は恐怖と一人きりで向き合わざるを得ません。そこには思わず手を差し伸べたくなるような、不安に満ちた小さな女の子がいるのと同時に、自分の生死よりも愛こそが大切だと決意した一人の女性がいます。演じていて本当にやりがいのあるシーンです。

Photo:Bill Cooper

「ジゼル」

――2014年に待望のジゼル役デビューをされました。作品の醍醐味は?

ラム:古典作品ですが、おとぎ話でなく現実味あふれる作品であるところが面白いと思います。ジゼルは心臓発作のようなもので亡くなるのですが、現代にも心臓が弱いのにスポーツをした結果、突然亡くなる若者というのはいます。まるで当時バレエを作った人が科学的な裏付けを知っていたかのようです。
 また他の古典作品、例えば『眠れる森の美女』のオーロラ姫は人間としてあまりにも完璧で複雑さはありません。けれど『ジゼル』は役に陰影を付け加えていくことができます。彼女はアルブレヒトが自分を愛していると純粋に信じ、心を捧げたのにもかかわらず、彼は自分の来た世界に帰ってしまう。これは信頼関係の話でもありますよね。

――ジゼルの信頼をアルブレヒトは裏切ります。アルブレヒトに対してはどう考えますか?

ラム:これは(『ロミオとジュリエット』を振付けた)ケネス・マクミラン作品の登場人物にも広く言えることですが、人は時として自分が正しいことをしていると信じていながら、結果として間違ったことをしてしまうものです。私たちはみんな完璧ではないのですから、どんな登場人物も共感を得てしかるべきだと思います。
 例えばアルブレヒトは結果としてすべてを台無しにしましたが、初めから誰かの人生を破滅させるつもりはなかったのだと思います。観客の方々がジゼルだけでなくアルブレヒトに対しても気の毒に感じるからこそ『ジゼル』は悲劇になるのでしょう。

――ご趣味は読書だとか。お気に入りの作家は?

ラム:現代の作家ではドナ・タートやジョナサン・フランゼン、またP・G・ウッドハウス、古典ではトルストイやドストエフスキーが好きです。高校生の頃は三島由紀夫も好きで読んでいました。

――すでに何度も来日されています。日本の印象は?

ラム:日本のお客さまが大好きなので、日本公演を本当に楽しみにしています。日本のお客さまはバレエに不可欠な鍛錬や職人的な部分も理解してくださっているように思います。日本では例えば寿司職人や家具職人のように、何かに打ち込み、極めた人を深く尊敬する文化があるのではないでしょうか。だからこそ日本では「分かってもらえる」と感じるのかもしれません。
 「実はムーミンが好きで、日本に行くと思わずムーミングッズを買ってしまうの」というかわいらしい一面も。ラムの日本公演での活躍が本当に楽しみだ。

              

2016年日本公演
英国ロイヤル・バレエ団

「ロミオとジュリエット」(全3幕)

【公演日】

2016年
6月16日(木)6:30p.m. ジュリエット:ローレン・カスバートソン/ロミオ:フェデリコ・ボネッリ
6月17日(金)6:30p.m. ジュリエット:ヤーナ・サレンコ/ロミオ:スティーヴン・マックレー
6月18日(土)1:00p.m. ジュリエット:サラ・ラム/ロミオ:ワディム・ムンタギロフ
6月18日(土)6:00p.m. ジュリエット:ナターリヤ・オシポワ/ロミオ:マシュー・ゴールディング
6月19日(日)1:00p.m. ジュリエット:マリアネラ・ヌニェス/ロミオ:ティアゴ・ソアレス

会場:東京文化会館

「ジゼル」(全2幕)

【公演日】

2016年
6月22日(水)7:00p.m. ジゼル:マリアネラ・ヌニェス/アルブレヒト:ワディム・ムンタギロフ
6月24日(金)7:00p.m. ジゼル:ナターリヤ・オシポワ/アルブレヒト:マシュー・ゴールディング
6月25日(土)2:00p.m. ジゼル:サラ・ラム/アルブレヒト:スティーヴン・マックレー
6月26日(日)2:00p.m. ジゼル:ローレン・カスバートソン/アルブレヒト:フェデリコ・ボネッリ

会場:東京文化会館

【入場料[税込]】

S=¥25,000 A=¥22,000 B=¥19,000 C=¥15,000 D=¥11,000 E=¥8,000