イタリア生まれのアッツォーニ、ウクライナ出身でローザンヌ国際バレエコンクールの受賞者であるリアブコは、ハンブルク・バレエ団を率いる振付家ジョン・ノイマイヤーが、全幅の信頼を寄せるダンサーである。
バレエ学校時代からノイマイヤーのバレエに魅せられ、卒業後に同団に進んでからは次々と主要な役を与えられ、深くリアリティのある表現で観客を魅了し続けてきた。
公私共に最高のパートナーであり、2016年3月の来日公演で上演される『真夏の夜の夢』でも様々な役を踊ってきた二人に、お話をうかがった。
――『真夏の夜の夢』は1977年の初演。その前にもバランシン(1962年)、アシュトン(1964年)などの名振付家が手がけていますが、ノイマイヤー版の特徴は?
アッツォーニ:まず、ふつうのお伽話ではないところでしょう。貴族、職人という二つの階級の人間、そして妖精の三種類のキャラクターが登場しますが、ジョンは衣裳の違いに加えて、踊りのスタイルによってそれらを描き分けているんです。貴族はエレガントな装いで古典バレエの動き、職人は平服で日常的な動き、そして妖精は羽根の生えた一般的なイメージとは違うユニタードを着て、よりアブストラクトでストレートなラインを見せる踊りです。
リアブコ:音楽も、貴族にはメンデルスゾーン、職人には機械オルガンから流れる様々な曲、そして妖精にはリゲティの電子音楽と使い分けています。そして貴族たちは愛を求めて、また職人たちは劇の練習をしに森にやって来て、作品が進むにつれて、それぞれの世界がつながっていきます。
―― 人間と妖精の二役、すなわち女王のヒッポリータとタイターニア、王のシーシアスとオベロン、他にも幾つかの組み合わせを、それぞれ一人のダンサーが踊るのもユニークです。
アッツォーニ:一人の人物が役から役へとスムーズに、細部まで整合性を保ちながら重なるのは、ジョンならではですよね。人間のカップルは結婚を控えているけどお互いを知らず、不安定で脆い関係にある。一方妖精の方は長く連れ添った夫婦で、はっきり物を言い合う仲。この全く違う関係を行き来しながら、“対立や不安を乗り越えて、愛は成就する”というのが、このバレエのメッセージなのです。
リアブコ:そしてじつはこの二人の女性には、“愛を希求する”という共通点がある。それを、一人が二役を踊ることで表現しているんです。僕自身のこの作品での初役だったパック/シーシアスの従者などもそうですが、気質も踊りのスタイルも違う二役を切り替えるのは難しい。でもだからこそ、演じがいがあるんです。
アッツォーニ:早変わりもあるので、踊る本人は本当にたいへんだけど(笑)。
リアブコ:でもそれがまた、切り替えを助けてくれるんだよね。
―― そして2幕の最後には、華麗な結婚式のパ・ド・ドゥがあります。
アッツォーニ:古典バレエのグラン・パ・ド・ドゥに匹敵する、美しい踊りです。ヒッポリータとシーシアスは、ディヴェルティスマンの間ずっと舞台にいて、物語の中に没入している。身体の感覚は、袖でウォームアップしながら出番を待ついつもの場合とは全然違いますが、だからこそ、踊りではなく「私たちは愛し合って結婚するのだ」と宣言することが目的だと実感できる、すてきな場面です。
『椿姫』や『ニジンスキー』等、悲劇的な結末の多いノイマイヤーの作品にあって、『真夏の夜の夢』のハッピーエンドは、珍しいものとも言える。今回上演が予定されているもう一つの全幕作品『リリオム―回転木馬』もまた、悲しい物語である。「たとえ希望を残して終わっても、愛を手に入れられなければ主人公にとっては悲劇。でも私達の人生にも往々にしてそうした辛さがあり、バレエはそれを映し出す鏡なんです。だからこそ、人々は悲しいバレエにも脚を運ぶのでしょう」と語るのは、アッツォーニ。その言葉を噛み締めながら観ると、『真夏の夜の夢』で成就する愛の重みが、かけがえのないものとして実感されるに違いない。
(長野由紀 舞踊評論家)
2016年
3月4日(金)6:30p.m.
3月5日(土)2:00p.m.
3月6日(日)2:00p.m.
会場:東京文化会館
2016年
3月8日(火)6:30p.m.
3月9日(水)6:30p.m.
会場:東京文化会館
2016年
3月11日(金)6:30p.m.
3月12日(土)2:00p.m.
3月13日(日)2:00p.m.
会場:東京文化会館
「リリオム」 | リリオム:カースティン・ユング |
ジュリー:アリーナコジョカル | |
「真夏の夜の夢」 | ヒッポリータ/タイターニア:エレーヌ・ブシェ(3/11、3/13) |
アリーナ・コジョカル(3/12) | |
シーシアス/オベロン:エドウィン・レヴァツォフ(3/11、3/13) | |
カースティン・ユング(3/12)ほか |
*演奏:「リリオム」は特別録音音源+北ドイツ放送協会ビッグバンド、「真夏の夜の夢」は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
S=¥23,000 A=¥20,000 B=¥17,000 C=¥14,000 D=¥11,000 E=¥8,000
ウィーン国立歌劇場 2016年日本公演 |
英国ロイヤル・バレエ団 スティーヴン・マックレー インタビュー |
ハンブルク・バレエ団 アッツォーニ&リアブコ インタビュー |