シュツットガルト・バレエ団 2015年日本公演 「ロミオとジュリエット」 「オネーギン」 ジョン・クランコの魂が生きる、ドラマティック・バレエの最高峰

photo:Stuttgart Ballet

アリシア・アマトリアン&
フリーデマン・フォーゲル

 鬼才と称えられたジョン・クランコが1973年に没してからすでに40年が過ぎているが、今なお彼の作品は「シュツットガルトの奇跡」として燦然たる輝きを放っている。今秋、3年振りに来日するシュツットガルト・バレエ団が上演するのは、クランコが演出したバレエの中でも最も人気の高い『ロミオとジュリエット』と『オネーギン』である。
 『ロミオとジュリエット』の物語はあまりにも有名なのでここでは触れないが、シェイクスピアの原作にある猥雑な表現や地口・駄洒落が、プロコフィエフのバレエ音楽ではカーニバルの踊りに置き換えられたこと、そしてクランコ版においてはカーニバルに特有な「互いに自由で無遠慮な接触」を通して、群舞と主役の踊りが不断に交替することでバレエ全編が構成されていることに注目すべきだろう。
 例えば第1幕の「朝の踊り」にロミオやマキューシオが跳び上がって肩を小突き合う踊りがあるが、誤ってマキューシオがキャピュレット家の家人と接触し、これが契機となってモンタギュー・キャピュレット両家の決闘に発展する。その夜、ロミオは図々しくもキャピュレット家の舞踏会に忍び込み、そこでジュリエットと出会い、2人は恋に落ちる。第2幕のカーニバルの場面では人々の踊りの列がぐるぐると回りながら、ほつれてはまた結びつき、交錯するなか、マキューシオとティボルトが衝突して命を落とす。こうした急激な状況の変化に引き摺られて、ロミオとジュリエットはひたすら死に向かって突き進んでゆくかのように見える。
 だが、ロシアの文学者バフチンによれば「カーニバル劇の根底には不断の変転と、死と再生のパトスが存在する」。カーニバルの喧騒を背景に、クランコは絶えず死と背中あわせにいる2人の恋人たちを静かに見守り、『ロミオとジュリエット』の死と再生=永遠の愛を抒情的に謳い上げる。

photo:Stuttgart Ballet

アンナ・オサチェンコ&
ジェイソン・レイリー

 もう一つの演目『オネーギン』はロシアの国民詩人プーシキンの韻文小説をバレエ化したもので、舞台は19世紀帝政ロシア、世を拗ねて憂愁の虜となっている知識人オネーギンと、美しく誠実でロシア女性の象徴と呼ばれるタチヤーナとの悲恋を描いている。音楽はチャイコフスキーのピアノ組曲「四季」、オペラ『女帝の靴』、交響詩「フランチェスカ・ダ・リミニ」などをもとにクルト・ハインツ・シュトルツェがアレンジした。
 クランコはタチヤーナとオネーギン、タチヤーナの妹オリガとその恋人レンスキーという二組のペアの踊りをバレエの中心に据え、「鏡」や「手紙」といったモチーフを活用しながら主人公たちの細やかな心理の変化を描写する。随所にダイナミックな民族舞踊やきらびやかな宮廷舞踊を配して、ロシア農村の自然や都市の世相を活写し、「19世紀ロシア社会の百科全書」と称された『オネーギン』の世界を巧みに舞踊化している。但し、第1幕の農民たちのホロヴォード(輪舞)や第3幕冒頭のポロネーズなどは、19世紀古典バレエにありがちな円形や方形の固定した因襲的な構図ではなく、それらを意識的にずらしてゆく独特のフォーメーションであり、『ロミオとジュリエット』におけるカーニバルの踊りのように離散してはまた結合し、華麗なクライマックスを準備する。
 しかし何と言っても圧巻はオネーギンとタチヤーナのデュエットだろう。第1幕のいわゆる「鏡のパ・ド・ドゥ」ではバレリーナを片手で高々と持ち上げるアクロバティックなリフトによってヒロインの感情の高まりを表現するいっぽうで、第3幕の幕切れは過ぎ去った愛情を求めて懇願するオネーギンと彼に背を向けるタチヤーナの踊りが、愛し合いながらも決して結ばれることのない2人の<不和のデュエット>の様相を呈する。このような高度な舞踊技術と演劇表現は20世紀ロシア・バレエが獲得した、ロシア・バレエならではの美質だが、『オネーギン』においてクランコはロシア人以上にロシアの美的世界を表現するのに成功していると言えよう。
 初演から半世紀を経て、『オネーギン』はすでにシュツットガルト・バレエ団だけでなく、デンマーク・ロイヤル・バレエ団、アメリカン・バレエ・シアター、英国ロイヤル・バレエ団、東京バレエ団といった世界の名だたるバレエ団によって上演されている。プーシキンの生国ロシアでも2013年、クランコが敬愛してやまなかったボリショイ・バレエがこの作品をレパートリーに採用した。『オネーギン』は地域を越え、世代を超えて上演され続けており、世界の古典として揺るぎない地位を獲得しているのである。


2015年日本公演
シュツットガルト・バレエ団
「ロミオとジュリエット」全3幕

【公演日】

2015年
11月13日(金)6:30p.m.
11月14日(土)2:00p.m.
11月15日(日)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

ジュリエット:
アリシア・アマトリアン(11/13)、アンナ・オサチェンコ(11/14)、エリサ・バデネス(11/15) 
ロミオ:
フリーデマン・フォーゲル(11/13)、ジェイソン・レイリー(11/14)、ダニエル・カマルゴ(11/15)

【入場料[税込]】

S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000 C=¥12,000 D=¥9,000 E=¥6,000
エコノミー券=¥4,000 学生券=¥3,000

◆ペア割引[S, A, B席]あり
◆親子ペア割引[S, A, B席]あり
※エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで10/9(金)より発売。

2015年日本公演
シュツットガルト・バレエ団
「オネーギン」全3幕

【公演日】

2015年
11月21日(土)2:00p.m.
11月22日(日)2:00p.m.
11月23日(月・祝)2:00p.m.

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

タチヤーナ:
アリシア・アマトリアン(11/21)、ヒョ・ジョン・カン(11/22)、アンナ・オサチェンコ(11/23)
オネーギン:
フリーデマン・フォーゲル(11/21)、ロマン・ノヴィツキー(11/22)※、ジェイソン・レイリー(11/23)

※シュツットガルト・バレエ団日本公演の「オネーギン」の配役につきまして、一部配布済みの公演チラシ、「NBSニュース」の記載から上記のように変更が生じております。なにとぞご了承いただきますようお願い申し上げます。

【入場料[税込]】

S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000 C=¥12,000 D=¥9,000 E=¥6,000
エコノミー券=¥4,000 学生券=¥3,000

◆ペア割引[S, A, B席]あり
◆親子ペア割引[S, A, B席]あり
※エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで10/9(金)より発売。

2015年日本公演
シュツットガルト・バレエ団
ガラ公演〈シュツットガルトの奇跡〉

【公演日】

2015年
11月18日(水)6:30p.m.

会場:東京文化会館

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000 C=¥12,000 D=¥9,000 E=¥6,000
エコノミー券 ¥4,000 学生券 ¥3,000

◆ペア割引[S, A, B席]あり
◆親子ペア割引[S, A, B席]あり
※エコノミー券はイープラスのみで、学生券はNBS WEBチケットのみで10/9(金)より発売。

その他の都市

【札幌】「ロミオとジュリエット」 11/25(水)ニトリ文化ホール TEL:011-241-3871
【西宮】「オネーギン」 11/28(土)兵庫県立芸術文化センター TEL:0798-68-0255